「コーナーキックなのに、ベンチが掲げているのは戦術ボードじゃなくて……マテ茶?」
「今度は合コン?」
「風車?」
「蟻地獄!?」
2026/27シーズン序盤、J2でかなり面白いことが起きています。
仕掛けているのは、槙野智章監督率いる藤枝MYFC。
藤枝がCKを獲得すると、ベンチ前から大きなボードが掲げられる。
そこに描かれているのは、一般的なサッカーの戦術図ではありません。
マテ茶。
白い犬。
爆弾。
合コン。
風車。
蟻地獄。
初めて見た人なら、
「いや、何の指示?」
となるでしょう。
ところが面白いのは、これが単なる槙野監督の“話題作り”ではないことです。
8月8日のJ2開幕戦・ベガルタ仙台戦ではCKから2得点を奪って2-0で勝利。続く8月15日のいわきFC戦でも、セットプレーを起点に2得点を奪って3-1で勝利しました。Jリーグ公式も「セットプレー時のイラストによるサイン」が話題になり、実際に得点へつながっていることを紹介しています。
笑える。
でも、ちゃんと点が入る。
だから余計に気になる。
今回は、藤枝MYFCの“イラスト作戦ボード”は一体何をしているのか、仙台戦・いわき戦で実際に起きたプレーを振り返りながら、槙野智章監督のセットプレー戦術を徹底的に深掘りします。
1. そもそも藤枝の「作戦ボード」とは?
CKになるとベンチから“絵”を掲げる
仕組みそのものはシンプルです。
藤枝がCKなどのセットプレーを獲得する。
するとベンチ前でスタッフが、
大きなイラスト入りボード
を選手たちへ見せます。
開幕戦の仙台戦では太田吉彰ヘッドコーチがボードを掲げる姿が中継でも映され、大きな話題となりました。
ただし、
「ニアへ蹴れ」
「5番がファーへ走れ」
などとは書かれていません。
表示されるのは「マテ茶」「爆弾」といった、一見サッカーとはまったく関係のないもの。
つまりこれは、
選手たちだけが意味を共有している暗号
なのです。
2. なぜ普通の番号ではなく“イラスト”なのか?
理由は「セットプレーが多すぎて覚えられない」
ここが一番面白いところです。
槙野監督によると、百年構想リーグから非常に多くのセットプレーパターンを準備していました。
しかし選手側から、
「覚えられない」
という声が出た。
そこで生まれたのがイラストボードです。
槙野監督は、数多くのサインプレーを提示すると選手も混乱するため、選手にも観客にも分かりやすい方法として作戦ボードを採用したと説明しています。ホーム開幕2試合では、藤枝の5得点のうち4得点がボードを用いたセットプレーから生まれたとも報じられています。
これはかなり合理的です。
例えば、
「CKパターン37番」
より、
「風車!」
の方が瞬時に頭へ入る。
人間は数字や複雑な文章より、強いイメージと動きを結びつけた方が覚えやすい。
藤枝はそれをサッカーへ持ち込んでいるわけです。
3. 現在判明している“謎ボード”一覧
| ボード | 使用が確認された試合 | 結果・特徴 |
|---|---|---|
| マテ茶 | 仙台戦 | CKから得点につながる |
| 白い犬 | 仙台戦 | 詳細な動きは非公開 |
| 爆弾 | 仙台戦 | 使用確認。得点には直結せず |
| 合コン | 仙台戦 | CKから得点につながる |
| 風車 | いわき戦 | 選手が回転する動き→二次攻撃から得点 |
| 蟻地獄 | いわき戦 | 集団移動で相手を引きつけ→オウンゴール誘発 |
開幕戦では「マテ茶」「白い犬」「爆弾」「合コン」などが使用され、得点時には「マテ茶」「合コン」のボードが出ていたと報じられています。続くいわき戦では「風車」「蟻地獄」が登場しました。
これだけでも十分おかしい。
いや、褒めています。
4. 仙台戦|いきなり作戦ボードが2ゴールを生む
2026/27シーズン開幕戦。
藤枝の相手は、百年構想リーグ王者のベガルタ仙台でした。
結果は、
藤枝2-0仙台。
得点は、
12分 鈴木翔太
73分 金本毅騎。
そしてJリーグ公式も、2得点ともCKから生まれたことを紹介しています。
つまり開幕戦から、
作戦ボード。
↓
セットプレー。
↓
ゴール。
↓
セットプレー。
↓
またゴール。
いきなり結果まで出してしまいました。
5. 「マテ茶」が出たら何が起こる?
名前と実際の動きに関連があるとは限らない
ここで大事なのは、
「マテ茶=こう動く」
という中身そのものは一般公開されていないことです。
当然です。
全部説明したら暗号になりません。
重要なのは、
言葉の意味とプレー内容に直接的な関連がなくてもいい
ということ。
むしろ関係がない方が相手には分かりにくい。
例えば、
「ニア」
と表示したら相手も分かる。
でも、
「マテ茶」。
相手ベンチからすると、
「……何?」
です。
その数秒間に藤枝の選手だけは、
立ち位置。
助走。
ブロック。
走り込む場所。
キックの方向。
を共有している。
これが面白いところです。
6. 「合コン」は一体どんな作戦なのか
仙台戦で得点につながったもう一つのキーワードが、
「合コン」。
男女複数人がテーブルを囲んでいるようなイラストが用いられていたと報じられました。
なぜ合コンなのか。
集まるのか。
二人組を作るのか。
途中で席替えするのか。
誰か一人が抜けるのか。
想像はいくらでもできます。
しかし、そこが槙野監督の狙いでもあるのでしょう。
相手に考えさせる。
考えている間に蹴る。
サッカーのセットプレーは、ほんの一瞬の判断遅れでマークが外れます。
「なんだあれ?」
となった時点で、心理的には藤枝の勝ちなのかもしれません。
7. いわき戦で進化|「風車」が登場
そして翌節。
8月15日のいわきFC戦。
ここで、ボード戦術はさらに分かりやすくなりました。
前半11分のCK。
掲げられた文字は、
「風車」。
するとファーサイド付近にいた藤枝の複数選手が、キック直前にぐるぐると回転するような動きを見せます。
これはかなり面白い。
相手DFからすれば、
「俺のマークは誰?」
となります。
マンツーマンなら、動く選手についていかなければならない。
しかし複数選手が同時に回る。
交差する。
前後が入れ替わる。
その瞬間、
マークの受け渡しが難しくなる。
これが「風車」の大きな狙いだと考えられます。
8. 風車は直接決まらなかった。でも二次攻撃からゴール
さらに重要なのがここです。
「風車」のCK自体は相手DFにクリアされました。
普通なら、
「作戦失敗」。
で終わります。
しかし藤枝は違いました。
こぼれ球を回収。
二次攻撃。
菊井悠介から松田佳大。
岡本拓也。
そして最後は森侑里。
12分。
1-0。
つまり、
CKを直接決めることだけがセットプレー戦術ではない。
相手守備を混乱させる。
クリアさせる。
セカンドボールを拾う。
相手がまだ整っていない状態でもう一度攻める。
そこまでがデザインされていると考えると、この戦術はさらに面白く見えてきます。
9. 後半には「蟻地獄」
そして1-1で迎えた59分。
藤枝がCKを獲得。
今度は、
「蟻地獄」。
ファー側に集まっていた藤枝の選手たちが一団となって動き、相手選手を引きつけながらニア方向へ移動。
そこへCK。
最終的にはいわき側のオウンゴールとなり、藤枝が2-1と勝ち越しました。
蟻が中心へ吸い込まれていくように、
守備者を一か所へ集める。
そこから生まれたスペースを使う。
「蟻地獄」という名称と動きがかなりリンクしています。
これは覚えやすい。
10. 作戦ボード最大のメリット①「認知負荷」を減らせる
サッカー選手が試合中に考えていることは山ほどあります。
スコア。
時間。
相手の配置。
自分のマーク。
疲労。
監督の指示。
次のプレー。
そこへ、
「CKパターン47番、最初は4人がファーで……」
と全部思い出すのは大変です。
でも、
「風車」
なら一瞬です。
「あれね。」
で終わる。
これがボード方式最大のメリットでしょう。
複雑な戦術を、一つの画像へ圧縮しているわけです。
11. メリット② 大歓声の中でも伝わる
もう一つ大きいのが、
声を使わなくてもいいこと。
セットプレー。
終盤。
満員のスタジアム。
サポーターは大声援。
ベンチから、
「○○番!」
と叫んでも聞こえない可能性があります。
そこで巨大なイラスト。
選手は一度ベンチ方向を見るだけ。
瞬時に理解できる。
SNSではその伝達方法の合理性を評価する声も出ています。
話題性だけではありません。
実用性があります。
12. メリット③ 相手には意味が分からない
これも強い。
作戦ボードは堂々と公開されています。
普通に考えれば、
「作戦を相手に見せて大丈夫なの?」
と思います。
しかし表示されるのは、
犬。
爆弾。
マテ茶。
合コン。
風車。
です。
内部で対応表を共有していなければ、何を意味するか分かりません。
仮に過去映像から、
「風車=選手が回る」
と分析されたとしても、新しいボードへ変えればいい。
槙野監督は開幕戦後、セットプレーのパターンについて**「あと100個ぐらいある」**という趣旨の発言もしています。
100個。
本当なら対戦相手の分析担当泣かせです。
13. さらに8月だけで「15枚」
9月1日には槙野監督自身がSNSで、8月に掲げられた作戦ボードが15枚だったことを紹介。
「なぜ15枚なのか」「すべてに意味がある」としながら、具体的な答えは明かさず、「答え合わせはスタジアムで」という形でさらに謎を深めました。
これも上手い。
戦術であると同時に、
コンテンツになっています。
「あのボード何?」
↓
SNSで拡散。
↓
藤枝の試合を見る。
↓
また新しいボードが出る。
↓
次も見たくなる。
槙野監督はセットプレーだけでなく、
藤枝MYFCそのものへの興味まで生み出している。
ここが普通の戦術家とは少し違うところでしょう。
14. なぜ槙野智章はセットプレーにこれほどこだわる?
これは現役時代を考えると納得できます。
槙野智章といえばCB。
でも、
得点できるCB
でした。
広島。
ケルン。
浦和。
神戸。
日本代表。
特にセットプレーでは、
どこへ入ればマークを外せるか。
相手DFが何を嫌がるか。
ニアで誰を動かせばファーが空くか。
スクリーンされた守備者がどう感じるか。
攻撃する側だけでなく、守る側の感覚まで持っています。
現役時代に何百回、何千回とセットプレーの攻防を経験してきたDF。
その経験が監督になった今、
「どうすればDFを迷わせられるか」
という発想へ変換されているのでしょう。
15. 「風車」と「蟻地獄」に共通する本当の狙い
名前は全然違います。
でも戦術的には共通点があります。
それは、
守備側に“選択”を迫ること。
です。
風車。
マークについていく?
受け渡す?
ゾーンに残る?
蟻地獄。
集団についていく?
スペースを守る?
ボールを見る?
選手を見る?
守備側に二択を与える。
そこで判断が分かれれば、
DF同士の間にズレが生まれます。
セットプレーでは、そのズレが50cmでも十分です。
先にボールへ触ればゴールになる。
槙野藤枝が作っているのは、
「フリーになる選手」ではなく「守備者が迷う状況」
なのではないでしょうか。
16. 実は藤枝の「Mirageo」と完全につながっている
これは単独の珍作戦ではありません。
槙野監督が藤枝で掲げる攻撃コンセプトが、
「Mirageo(ミラージオ)」。
「Mirage」「Neo」「Go」を組み合わせた造語で、相手から見つかりにくく、予測しにくい変幻自在な攻撃を目指しています。
考えてみれば作戦ボードも同じです。
相手に分からない。
予想させない。
毎回違う。
選手が動く。
配置が変わる。
セットプレー版Mirageo。
と表現してもいいでしょう。
流れの中だけでなく、ボールが止まった場面まで「相手を迷わせる」という思想が一貫しています。
17. だから「ただの奇策」で終わっていない
こういうアイデアは、得点できなければ簡単に言われます。
「パフォーマンスでしょ。」
「目立ちたいだけでしょ。」
しかし藤枝は結果を出しました。
仙台戦。
2-0。CKから2得点。
いわき戦。
3-1。セットプレーを起点に2得点。
ホーム開幕2試合で5得点。
そのうち4得点が、ボードを用いたセットプレーから生まれたと報じられています。
これでは笑って終われません。
対戦相手からすれば、
普通に怖い。
18. ただし今後は確実に対策される
ここからが本当の勝負です。
すでに動画はSNSで大量に拡散されています。
当然、J2各クラブの分析担当も見ています。
風車。
蟻地獄。
マテ茶。
どんな立ち位置だった?
誰が最初に動いた?
キッカーはどこを見た?
藤枝側の選手がどこへ集まった?
すべて分析されるでしょう。
そのため今後必要になるのが、
「同じボードから違う動きを出すこと」
です。
風車を掲げる。
相手が「回るぞ」と思う。
でも回らない。
ニアへ一人だけ走る。
これができれば、さらに厄介です。
19. 「偽ボード」が出始めたらもっと面白い
これは当サイトの戦術的な想像ですが、今後ぜひ見てみたいのが、
デコイ=偽サイン。
です。
例えば、
「蟻地獄」。
相手ベンチが映像分析済み。
「固まってニアへ来る!」
と思った瞬間。
藤枝は全員ファーへ。
あるいはショートコーナー。
そうなれば、
作戦ボードは選手への指示だけではなく、
相手への罠
になります。
15枚。
さらに100近いアイデアがある。
そこまでバリエーションを増やす理由は、まさに対策された後まで考えているからなのかもしれません。
20. 作戦ボードは「ファンをセットプレーへ参加させた」
これもかなり大きいと思います。
普通、CKになればサポーターは、
「入れ!」
と思って見る。
でも今の藤枝では、
CK。
↓
ベンチを見る。
↓
「今日は何のボードだ?」
↓
選手を見る。
↓
「どう動く!?」
という楽しみ方が増えました。
セットプレーそのものが一つのショーになっています。
これは槙野監督が就任時に掲げた、
ボールを奪う。
ゴールを奪う。
勝点を奪う。
そして、
ファンのハートを奪う。
という「UBAU」にもつながっています。
21. Jリーグもこの戦術を評価
そして9月10日。
槙野智章監督は、
2026/27明治安田J2リーグ8月度・月間監督賞
を受賞しました。
初受賞です。
選考では、若手起用やチーム作りだけでなく、セットプレーのサインプレーも評価材料として挙げられています。
つまり、
「SNSでバズった珍作戦」
ではなく、
J2で結果を出した戦術の一つとして認められ始めた
ということです。
22. 藤枝のセットプレーから目を離せなくなった
これから藤枝と対戦するチームは大変です。
通常なら、
藤枝のビルドアップ。
3-4-2-1。
シャドーの動き。
WB。
プレス。
カウンター。
そこを分析します。
でも今年はさらに、
「今週は何の絵を出してくる?」
まで考えなければならない。
そしてサポーター側は逆です。
楽しみが一つ増えた。
今度のCKは何?
新作は?
あのボードはどういう意味?
そして本当に点が入る?
これほどセットプレーを見るのが楽しみなチームは、今のJリーグでも珍しいでしょう。
23. まとめ|「何してるんだ?」から「また決めた!」へ。それが槙野藤枝
マテ茶。
白い犬。
爆弾。
合コン。
風車。
蟻地獄。
文字だけ並べれば、
サッカーの記事とは思えません。
でも全部、
藤枝MYFCのセットプレーを動かす“暗号”。
です。
なぜ始めたのか。
答えは意外とシンプルでした。
セットプレーの種類が多い。
選手から、
「覚えられない」。
と言われた。
だったら絵にしよう。
そして巨大なボードにした。
それだけなら面白エピソードです。
しかし――。
仙台戦。
2-0。
CKから2得点。
いわき戦。
3-1。
「風車」から二次攻撃で森侑里。
「蟻地獄」からオウンゴールを誘発。
結果まで出てしまった。
だから面白い。
一見ふざけているように見える。
でも中身は、
選手の記憶負担を減らす。
満員のスタジアムでも伝達できる。
相手から暗号を隠す。
マークを混乱させる。
対戦相手の分析コストを増やす。
そしてファンまで楽しませる。
かなり考えられています。
槙野智章という人は、現役時代から、
「真面目なことを、真面目に見せない」
のが上手い人だったように思います。
今の作戦ボードも同じなのかもしれません。
見た目は「合コン」。
でも中では選手の立ち位置を数センチ単位で調整している。
見た目は「蟻地獄」。
でも狙っているのは相手DFのマーク基準を崩すこと。
笑って見られる。
でも相手監督は笑えない。
それが今の藤枝MYFCです。
そして槙野監督によれば、アイデアはまだまだある。
次は何でしょう。
寿司?
富士山?
電車?
宇宙人?
それとも、誰にも想像できない何か?
答えは、おそらく槙野監督しか知りません。
ただ一つだけ確かなことがあります。
藤枝がコーナーキックを取ったら――。
ボールだけを見てはいけない。
一度、ベンチを見てください。
そこに出ている“謎の絵”から、
次のゴールが始まるかもしれません。
これからも槙野智章監督と藤枝MYFCが、どんな新しいアイデアでJ2を驚かせてくれるのか。
次の作戦ボード、楽しみにしています。
免責事項
本記事は2026年9月11日時点で確認できるJリーグ、藤枝MYFC、試合記録および国内スポーツメディアの公開情報をもとに作成しています。
「マテ茶」「合コン」「風車」「蟻地獄」などの作戦ボードが使用された事実や、仙台戦・いわき戦の試合結果、得点経過については公開情報を参照しています。一方、各イラストが示す詳細な戦術内容についてクラブはすべてを公表しているわけではありません。
記事内の「守備者に選択を迫る」「認知負荷を軽減する」「偽サインへの発展可能性」などについては、公開された映像・監督コメント・実際の選手の動きを踏まえたワールドサッカーポータル独自の戦術分析・考察です。藤枝MYFCおよび槙野智章監督の公式見解を示すものではありません。
最新の試合情報およびクラブ公式情報については、Jリーグ・藤枝MYFC公式サイト等をご確認ください。









