2026年8月26日、福山通運ローズスタジアムで行われた天皇杯 JFA 第106回全日本サッカー選手権大会2回戦「サンフレッチェ広島vs沖縄SV」。
「J1の広島が順当に勝つだろう」と考えていた人も多かったはずです。しかし、試合開始からわずか12分、先にスコアを動かしたのは沖縄SVでした。
広島のオウンゴールによって沖縄SVが先制。一瞬、福山のスタジアムには“天皇杯らしい波乱”の空気が漂います。
ところが広島は、そのわずか2分後に松本泰志のゴールで同点。さらに加藤陸次樹が前後半に1点ずつを奪い、途中出場の鮎川峻もゴール。最終的にはサンフレッチェ広島が4-1で逆転勝利を収め、3回戦へ駒を進めました。
ただ、スコアだけを見て「広島の一方的な試合だった」と片付けてしまうと、この90分の面白さを見落としてしまいます。
沖縄SVは決して守っているだけではなく、広島ゴールへ迫る場面を作り、スタッツ上でも一定の攻撃量を記録しました。では、なぜ最終的には3点差がついたのでしょうか。
本記事では、8月27日時点の公式記録を基に、両チームのスタメン、得点経過、試合のターニングポイント、そして4-1という結果になった理由を詳しく振り返ります。
目次
- はじめに:12分間で漂った「ジャイアントキリング」の予感
- サンフレッチェ広島vs沖縄SVのスタメン
- 【試合経過】沖縄SV先制から広島が逆転するまで
- 【徹底分析】なぜ広島は4-1で勝つことができたのか?
- この試合で見逃せない3人――松本泰志・加藤陸次樹・鮎川峻
- まとめ:スコア以上に「天皇杯らしさ」が詰まった90分
1. はじめに:12分間で漂った「ジャイアントキリング」の予感
天皇杯最大の魅力は、普段は異なるカテゴリーで戦っているクラブが一発勝負で激突することです。
今回対戦したのはJ1のサンフレッチェ広島と、JFLの沖縄SV。
カテゴリーだけを見れば広島が圧倒的な格上ですが、沖縄SVは決して簡単な相手ではありませんでした。新体制で臨んだJFL CUPでは西グループを首位通過し、プレーオフラウンドも制して優勝。さらに天皇杯では沖縄県予選でJ3のFC琉球を破って本大会へ進み、1回戦でもJ3のギラヴァンツ北九州を延長戦の末に2-1で撃破しています。
つまり広島からすれば、「JFLだから大丈夫」と考えられる相手ではありませんでした。
しかも広島は8月22日のJ1川崎フロンターレ戦から中3日。さらに8月29日にはガンバ大阪戦が控える過密日程です。実際、この天皇杯ではリーグ戦との兼ね合いも意識したメンバー構成となりました。
そして試合開始12分。
先制したのは沖縄SVでした。
公式記録上は広島のオウンゴール。格下側が先制し、J1クラブが追いかける――天皇杯で何度も見てきた“番狂わせの入り口”に、広島はいきなり立たされることになります。
2. サンフレッチェ広島vs沖縄SVのスタメン
両チームの先発メンバーは以下の通りです。
| ポジション | サンフレッチェ広島 | 沖縄SV |
|---|---|---|
| GK | 大迫敬介 | 大西将亜 |
| DF | 山﨑大地 | 遠藤海斗 |
| DF | 荒木隼人 | 朴勢己 |
| DF | 志知孝明 | 入柿堅志 |
| DF/MF | 新井直人 | 山田涼太 |
| MF | 川村拓夢 | 加藤匠人 |
| MF | 中島洋太朗 | 下口竜空 |
| MF | 菅大輝 | 村田達哉 |
| MF/FW | 松本泰志 | 永田貫太 |
| FW | 加藤陸次樹 | 髙橋剣士朗 |
| FW | 鈴木章斗 | 平田海斗 |
広島はGK大迫敬介を起用し、荒木隼人、川村拓夢、新井直人、加藤陸次樹らトップチームで実績を持つ選手を配置。一方で中島洋太朗や鈴木章斗らも先発に名を連ねました。
沖縄SVはGK大西将亜を最後尾に置き、遠藤海斗、朴勢己、入柿堅志、山田涼太らが守備陣を構成。中盤には加藤匠人、下口竜空、村田達哉、永田貫太が入り、前線は髙橋剣士朗と平田海斗が務めました。
広島は完全な若手中心ではなく、「勝ち上がるための経験値」と「出場機会を求める選手」をうまく組み合わせたメンバーだったと言えます。
3. 【試合経過】沖縄SV先制から広島が逆転するまで
前半12分:沖縄SVがまさかの先制
最初に試合を動かしたのは沖縄SV。
12分、広島側のオウンゴールによって沖縄SVが0-1とリードします。
カテゴリーが下のクラブにとって、先制点は単なる「1点」以上の価値があります。リードした状態で守備ブロックを整え、相手に焦りを生ませることができれば、時間が経過するほどジャイアントキリングの可能性は高まります。
沖縄SVにとっては理想的な展開になりかけました。
前半14分:松本泰志がわずか2分で同点
しかし、この日の広島が強かったのはここからです。
失点からわずか2分後の14分、松本泰志がゴールを決めて1-1。
この「2分」という短さは、この試合を考える上で非常に大きなポイントです。
もし沖縄SVが1-0の状態を10分、20分と維持できていれば、広島側には少なからず焦りが出ていたでしょう。ところが広島は、相手が先制の勢いを試合全体へ広げる前にすぐ追いつきました。
沖縄SVからすれば、「先制した」という心理的優位をほとんど生かす時間がありませんでした。
前半35分:広島が早い時間帯に守備陣を変更
35分には広島が山﨑大地を下げ、経験豊富な塩谷司を投入。
予定されていた交代なのか、コンディション面などを含めた判断なのかについて公式記録だけから断定することはできませんが、前半のうちに最終ラインへ経験値の高い選手を投入したことも、その後の試合運びを考える上では注目ポイントです。
前半41分:加藤陸次樹が逆転ゴール
そして前半終了が近づいた41分。
加藤陸次樹が広島の2点目を決め、2-1。
沖縄SVにとって非常に痛かったのは、この得点の時間帯でした。
1-1のままハーフタイムに入ることができれば、守備の修正を行い、後半開始からもう一度ゲームプランを組み直すことができます。
ところが広島は前半のうちに逆転。
沖縄SVは「同点を守る」のではなく、後半に自分たちから1点を取り返さなければならない状況になりました。
後半開始:鮎川峻を投入
広島はハーフタイムで鈴木章斗に代えて鮎川峻を投入します。
2-1でリードしている状況でも守りに入るのではなく、前線にフレッシュな選手を送り込みました。
後半5分:加藤陸次樹がこの日2点目
後半開始からわずか5分。
再び加藤陸次樹がゴールを奪い3-1。
この1点で試合の景色は大きく変わりました。
沖縄SVは同点にするために2点が必要となり、前へ出る必要性が一気に高まります。そのぶん後方にはスペースが生まれやすくなり、広島としては試合をコントロールしながら追加点を狙える展開になりました。
前半41分と後半50分。
ハーフタイムを挟んだ約9分間で加藤が2得点を奪ったことが、この試合最大の勝負どころだったと言っていいでしょう。
後半18分以降:広島が選手層を生かす
63分、広島は2得点の加藤陸次樹と川村拓夢を下げ、川辺駿と中野就斗を投入。
さらに70分には荒木隼人に代えて佐々木翔を送り込みました。
リードした状態で川辺、中野、佐々木というJ1で十分な経験を持つ選手を投入できる。
このあたりは、カテゴリー差以上に選手層の厚みを感じさせる部分でした。
後半34分:鮎川峻がダメ押し
79分には、ハーフタイムから出場した鮎川峻が4点目。
4-1となり勝負あり。
試合はそのまま終了し、広島が3回戦進出を決めました。
4. 【徹底分析】なぜ広島は4-1で勝つことができたのか?
最終スコアは4-1ですが、単純に「広島が90分間圧倒した」という内容ではありません。
サンフレッチェ広島公式の試合データではシュート数は広島13本、沖縄SV9本。一方、Jリーグ公式のスタッツ配信では沖縄SV側が11本と記録されており、データ提供元によって若干の差があります。
ただし、どちらを採用しても共通しているのは、シュート数そのものは4-1ほど大きな差ではなかったという点です。
では、なぜ3点差がついたのでしょうか。
最大の理由は「重要な時間帯での決定力」です。
まず失点直後の14分に松本泰志。
次に前半終了間際の41分に加藤陸次樹。
そして後半開始直後の50分にも加藤。
この3得点は、単にゴールが入っただけではありません。相手が勢いに乗りたい時間、ハーフタイムへ同点で入りたい時間、後半から反撃したい時間をすべて広島が得点によって断ち切っています。
特に1-0から1-1になるまでがわずか2分だったことは決定的でした。
沖縄SVが先制したにもかかわらず、その先制点をゲームプランへ落とし込む時間を広島が与えなかったのです。
もう一つ大きかったのが選手交代です。
広島は鮎川、川辺、中野、佐々木、塩谷といった選手を途中から起用しています。
気温33.5℃という厳しい環境の中で行われた試合で、試合途中からこのレベルの選手を次々投入できることは大きなアドバンテージでした。実際、途中出場した鮎川が4点目を記録しています。
沖縄SVも67分に小堀空と須藤太一、81分以降には後藤康介やイーライ・ウィップらを投入しましたが、3-1となったあとに広島の試合運びを崩し切るまでには至りませんでした。
つまり4-1という結果は、
「カテゴリー差だけ」ではなく、「失点後の修正速度」「勝負どころでの決定力」「選手交代後も落ちない戦力」
という3つの差が積み重なった結果だったと見るのが自然でしょう。
5. この試合で見逃せない3人――松本泰志・加藤陸次樹・鮎川峻
まず名前を挙げたいのは松本泰志です。
沖縄SVに先制され、スタジアムに嫌な空気が流れ始めた直後の14分に同点ゴール。
実は松本は、7年前の2019年に天皇杯で広島と沖縄SVが対戦した際にも先発していました。当時の試合も広島が4-0で勝利しています。7年後の再戦で、今度は自らゴールを決めたことになります。
そして、この日の主役と言っていいのが加藤陸次樹。
41分と50分に2ゴール。
特に1点目は前半終了直前、2点目は後半開始直後という、相手にとって最もダメージの大きい時間帯でした。
ストライカーに求められるのは、90分間ずっと目立つことではありません。
「ここで1点が欲しい」という瞬間に結果を残すこと。
その意味で加藤の2得点は、この試合の勝敗を大きく決定づける仕事でした。
そしてもう一人が鮎川峻です。
後半開始から途中出場し、79分にチーム4点目。
リーグ戦で常に十分な出場時間を得られるとは限らない選手にとって、天皇杯は自分の価値を示す重要な舞台でもあります。Jリーグ公式の試合前プレビューでも、鮎川は出場機会をつかみたい選手の一人として名前を挙げられていました。そこで実際にゴールという結果を残した点は、今後のチーム内競争という意味でも大きいでしょう。
6. まとめ:スコア以上に「天皇杯らしさ」が詰まった90分
天皇杯2回戦、サンフレッチェ広島vs沖縄SVは4-1で広島が勝利しました。
結果だけを見ればJ1クラブの順当勝ちです。
しかし試合開始12分には沖縄SVが先制。
沖縄県予選でFC琉球、本大会1回戦でギラヴァンツ北九州を破ってきた勢いそのままに、J1の広島を相手にも「ひょっとすると」という空気を作りました。
それでも広島は慌てませんでした。
14分に松本泰志が追いつき、41分と50分に加藤陸次樹が連続得点。最後は途中出場の鮎川峻が決めて4-1。
先制されたあと、わずか2分で追いついたこと。
前半終了直前に逆転したこと。
後半開始直後に3点目を奪ったこと。
この3つの時間帯で広島が見せた勝負強さこそ、今回のスコアを生んだ最大の理由でしょう。
一方で沖縄SVも、4-1という数字ほど簡単に押し込まれていたわけではありません。シュートやセットプレーの機会を作り、J1クラブ相手にも攻撃姿勢を失わなかった点は評価すべきです。
広島にとっては「格下相手に勝った試合」ではなく、一度は先制されながらもチームの総合力で試合をひっくり返した一戦。
沖縄SVにとっては敗退という結果になったものの、J3勢を連破してたどり着いた舞台で、J1の強豪から先制点を奪った経験は今後のJFLでの戦いにもつながっていくはずです。
広島はこの勝利で天皇杯3回戦へ進出。JFAのトーナメント情報では、次戦はいわきFCとの対戦が予定されています。
天皇杯は、カテゴリーや名前だけでは勝敗が決まらない大会です。
今回の一戦もまた、その魅力を十分に感じさせる90分でした。
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