サッカーの試合を観戦していると、画面に表示される「VAR Check」や、主審が耳に手を当てて立ち止まるシーンをよく目にするようになりました。「なぜ今試合が止まったのか?」「チェックとレビューは何が違うのか?」と疑問に思ったことがある方も多いのではないでしょうか。
単に「映像で判定をやり直している」だけではありません。実はその裏側では、試合の円滑な進行と判定の正確性を両立させるための、厳密に定義された段階的プロトコル(手順)が存在します。
本記事では、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)における「チェック」と「レビュー」の違いや、主審がピッチ脇のモニターを見に行く基準について、分かりやすく徹底解説します。
目次
- はじめに:VARの中断時間は「無駄な時間」ではない
- 「チェック(Check)」の仕組み:バックグラウンドで常に行われる映像解析
- 「レビュー(Review)」への発展:判定を覆す2つのプロセス(OFRとVAR Only Review)
- 介入を決定づける基準:「はっきりとした明確な間違い」の壁
- 審判のジェスチャーで解き明かす:耳に手を当てる意味とモニター確認のサイン
- まとめ:VARの「違い」を知ればサッカー観戦はさらに奥深くなる
- 免責事項
1. はじめに:VARの中断時間は「無駄な時間」ではない
現代サッカーにおいて不可欠な存在となったVAR(Video Assistant Referee)。しかし、ファンや選手からは「試合の流れ(テンポ)が止まる」「判定までに時間がかかりすぎる」といった不満の声が上がることがあります。
ですが、VARが介入するプロセスを正しく理解すると、その「中断時間」が緻密な検証作業であることに気づくはずです。VARの手続きには大きく分けて「チェック(Check)」と「レビュー(Review)」という2つの段階が存在し、それぞれ役割と実行する人物が明確に分かれています。この違いを知ることが、VARをめぐるモヤモヤを解消する第一歩となります。
2. 「チェック(Check)」の仕組み:バックグラウンドで常に行われる映像解析
「チェック(Check)」とは、VARルーム(VOR: Video Operation Room)にいるビデオ審判チームが、試合中にバックグラウンドで常時行っている映像確認のことです。
チェックの主な特徴
- 自動的に行われる: 主審からの要請がなくても、VAR側が自主的・継続的に全プレイを確認しています。
- 対象となるプレイ: VARがチェックできるのは、試合を大きく左右する「4つのゴール判断(得点・不得点)」「PKの有無」「直接レッドカード」「退場・警告対象者の間違え(人違い)」のみです。
- サイレント・チェック: 主審が試合を止めず、プレイが続行している裏でVARが映像を素早く確認し問題なしと判断するケースです。
つまり、「VAR Check」の表示が出たからといって、必ずしも判定が変更されるわけではありません。ほとんどのチェックは数秒〜十数秒で「問題なし(No Penalty / No Foul)」と確認され、そのままプレイが再開されます。
3. 「レビュー(Review)」への発展:判定を覆す2つのプロセス
バックグラウンドで行われた「チェック」の結果、主審の判断に疑問が生じた場合に移行するのが「レビュー(Review)」です。レビューは、ピッチ上の判定を変更する可能性がある場合に行われる正式な介入手続きを指します。
レビューには大きく分けて以下の2種類が存在します。
① オン・フィールド・レビュー(OFR: On-Field Review)
主審自身がピッチ脇に設置されたモニター(RRA: レフェリー・レビュー・エリア)まで歩いていき、自らの目で映像を確認して最終決定を下すプロセスです。
- 対象: ファウルの強度(レッドカード相当か)、ハンドの意図性、オフサイドポジションにいた選手がプレイに関与したか(主観的判断が必要なケース)など。
② VARオンリー・レビュー(Direct Review)
主審がモニターを見に行かず、VARからの無線連絡のみに基づいて判定を変更するプロセスです。
- 対象: オフサイドの位置関係、ボールが境界線(ゴールラインやサイドライン)を越えたかどうか、ファウルがエリアの内側か外側かなど、事実(ファクト)のみで判断できる明確な事例。
4. 介入を決定づける基準:「はっきりとした明確な間違い」の壁
VARは「すべての誤審をゼロにするためのシステム」ではありません。サッカーのルール(IFAB競技規則)では、VARがレビューを提案できるのは「はっきりとした明確な間違い(Clear and Obvious Error)」、または「見逃された重大な事象」があった場合のみと定められています。
なぜ「微妙な判定」ではVARが動かないのか?
サッカーの判定には、審判の裁量や主観に委ねられる「グレーゾーン」が多く存在します。「ファウルとも取れるし、ノーファウルとも取れる」ような五分五分のプレイに対し、VARが主審の裁量を無視して介入することは禁止されています。
「完璧な判定」を追い求めすぎると試合が完全にストップしてしまうため、「誰が見ても明らかに間違っている」レベルのミスだけを正す、というバランス設計がなされているのです。
5. 審判のジェスチャーで解き明かす:耳に手を当てる意味とモニター確認のサイン
スタジアムやTV観戦時、主審の動作を見るだけで「今どのような段階にあるのか」を瞬時に見分けることができます。
- 片手を耳に当て、もう一方の手を前に突き出すサイン
- 状態: 「チェック中」です。VARルームからの無線連絡を集中して聞いているため、プレイの再開を止めています。この時点ではまだレビューではありません。
- TVの形(四角形)を指で描くサイン
- 状態: 「レビューの開始(または終了)」を宣言するサインです。このシグナルを出した後にピッチ脇のモニターへ向かう(OFR)か、直ちに判定を変更(VARオンリー・レビュー)します。
「耳に手を当てている=即レビュー」と思われがちですが、実際には「チェック結果の最終確認をしている段階」であることが多いのです。
6. まとめ:VARの「違い」を知ればサッカー観戦はさらに奥深くなる
| 項目 | チェック(Check) | レビュー(Review) |
| 実行者 | VAR(ビデオ審判チーム) | 主審(およびVAR) |
| 目的 | 映像による事実確認・スクリーニング | 判定の再評価・変更手続 |
| 中断の有無 | プレイ続行中またはわずかな中断 | 明確な試合中断(OFR等) |
| 適用基準 | 重要な4つの事象全般 | はっきりとした明確な間違いがある場合 |
ゴールキーパーが派手なユニフォームを着てストライカーの視界を眩惑するように、VARの「チェック」と「レビュー」の切り分けもまた、試合のスピード感と公平性を追求した緻密なシステムです。
次に「VAR Check」の画面が出たときは、審判団が今どのフェーズで映像を分析しているのか、主審がモニターに向かうのかどうかを予測しながら観戦してみてください。テクノロジーと審判の心理戦が織りなすサッカーの新しい面白さが見えてくるはずです。
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